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  • 2026.03.27

    SGE YouTube チャンネル「Sport for Social Solutions (SSS) 」#19 日ASEANシンガポール調査報告 を公開しました

SSS#19 日ASEANシンガポール調査報告

成城大学スポーツとジェンダー国際平等研究センター(以下、SGE)は、YouTubeチャンネル『Sport for Social Solutions (SSS)』を運営しています。本チャンネルでは、専門家や行政関係者、アスリートなどの幅広いゲストとともに、社会課題解決のプラットフォームとしてのスポーツに光を当て、情報提供や意見交換を行います。

成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター YouTubeチャンネル:

SSS第19回目のテーマは「日ASEANシンガポール調査報告」。

ASEAN諸国の中でも高い経済発展を遂げたシンガポール。都市に整備されたスポーツ施設や公共空間では、性別を問わず人々が日常的に運動を楽しむ姿が見られます。一見すると、誰もが平等にスポーツに参加できる環境が整っているように見えるこの国のスポーツとジェンダーをめぐる現状はどのようなものなのでしょうか。

スポーツ庁委託事業としてSGEが進める「ASEAN-JAPAN Actions on Sport: Gender Equality」では、日本とASEAN11カ国の政府が協力し、スポーツを通じたジェンダー平等の実現を目指しています。その主要な取り組みの一つとして、2023年からは、女性・女児のスポーツ参加をめぐる課題とニーズを把握するための実態調査を進めています。

9カ国目となる調査地はシンガポール。SGEポスドク研究員の古田映布と髙田侑子が、現地における女性のスポーツへの参画の現状や課題を共有しました。

日常に溶け込んだスポーツ

まず、シンガポールでの印象について振り返った二人は、運動が日常に自然と溶け込んでいる様子に言及しました。駅の地下通路では、性別を問わずスケートボードやローラースケート、ダンスを楽しむ人々の姿が見られ、街の広告には運動を楽しむ家族の様子が描かれていたといいます。

また、見学に訪れたスタジアム周辺には屋根付きのトラックが整備され、誰もが自由に利用できる空間となっていたほか、バスケットボールやテニスなど、さまざまなスポーツを楽しめるマルチコートも一般開放されていたそうです。こうした環境から、シンガポールでは、スポーツに参加しやすい空間が日常の中に広がっている様子がうかがえました。

機会は平等に与えられている?ー認識と実態のギャップ

続いて、現地の政府関係者やスポーツ関係者へのインタビューを振り返りながら、髙田は「男女にあまり差はない」「男女平等にスポーツをする機会は開けている」といった語りが多く聞かれたことが印象的だったと話します。

しかし、対象者との議論を進める中で、こうした認識と実態との間にギャップがあることも見えてきました。例えば、競技によっては大会の機会に男女差が見られ、格闘技のような種目は女性がやるべきではないものと捉えられがちであるほか、「女性は日焼けするべきではない」といった規範も、女児・女性のスポーツ参加に影響を与えているという声がありました。加えて古田は、参加の「機会」自体は平等に開かれている一方で、奨学金制度などの資金面を含むリソース配分には不均衡があり、その結果として継続のしやすさや選択肢に差が生じている可能性を指摘しました。

継続という観点でも、性別による違いが見られるといいます。他の多くの調査国でも指摘されているように、女性の場合、妊娠や出産を機にスポーツへの参加が制限されやすいという意見が聞かれたそうです。特にシンガポールでは、家事をサポートするヘルパー制度の利用は一般的である一方で、育児については親が担うべきという認識が強く、妊娠や出産による制約はある程度やむを得ないものとして捉えられている側面もあるといいます。一方で男性についても、兵役によりスポーツの継続が制限されるといった声が聞かれました。さらに、シンガポールではスポーツよりも学業や仕事が優先される傾向が強く、スポーツ関係者やアスリートの中にも、医師や弁護士などの本業を持ちながら、副業的にスポーツを継続しているケースが少なくないといいます。


また、インタビューの中で特に議論の中心となったのは、リーダーシップポジションにおける女性の少なさです。要因として「やりたい女性がいない」という意見も一定数聞かれた一方、髙田は、その背景には、単に個人の意欲の問題ではなく、手を挙げづらい環境が影響している可能性を指摘しました。例えば、意思決定層に女性のロールモデルが少ないことや、女性であることを理由に過去に否定的な経験をしたことが、手の挙げづらさにつながっている可能性が示唆されました。また、古田は、インタビュー中に使われた「bro culture」という言葉を引き合いに、男性中心の文化の中で、組織の中で男性同士の非公式な合意形成や連帯感が生まれていることも、女性の参画を難しくしている要因の一つとして挙げ、見えづらい課題も存在していることを指摘しました。

さらに、髙田は、シンガポール社会に根付く能力主義(メリトクラシー:個人の能力に基づいて社会的な地位や権力が分配されるべきという理念)について言及。こうした文化的背景のもと、女性リーダーの割合を一定水準まで積極的に引き上げる施策に対しては、反発の様子も見られたといいます。また、古田は、女性リーダーを増やす施策として履歴書から性別欄を削除するといった意見が挙がっていたことに触れ、人選において性別に基づく無意識の偏見の存在を示唆する声も聞かれたことを共有しました。

スポーツをする意義ー「個」を中心に据える社会で

最後に、話題はスポーツをする意義がどのように捉えられているのかへと移りました。髙田は、スポーツの価値として、主に個人の身体的・精神的健康の向上やコミュニティ形成といった側面に重きが置かれていたことを共有。スポーツによって国全体のエンパワーメントや女性の権利向上が語られるというよりも、個人にとっての価値が重視されている点が特徴的だったといいます。


また古田は、調査全体を通じて、スポーツに参加するかどうか、継続するかどうか、あるいは女性がリーダーシップポジションに就くかどうかといった選択や責任が、「個人に委ねられている」という認識の強さを指摘しました。このような状況のもとでは、それらの選択の背景として考えられる、女性のロールモデルの不足やジェンダー規範に基づく否定的な経験といった構造的な問題の存在が表面化しにくい側面もあります。

髙田は最後に、「経済的に発展し、女性の社会進出も進んでいるからこそ、これまでとはスポーツに対する印象が異なり、新たに得られた知見も多かった」と振り返りました。続けて古田は、「ASEAN諸国全体で経済発展のレベルが異なる中でも、それぞれの知見を活かし合える点がASEANの良さだと感じている。私たちも調査したことを共有したり、議論できる機会をつくっていきたい」と締めくくりました。

今回の記事のフル動画はこちらよりご覧いただけます。

これまでの調査国の報告は、以下の記事をご覧ください。
インドネシアベトナムフィリピンカンボジアブルネイマレーシアタイ