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  • 2026.02.13

    SGE YouTube チャンネル「Sport for Social Solutions (SSS) 」#15を公開しました

SSS#15 運動部活動の地域移行

成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター(以下、SGE)は、YouTubeチャンネル『Sport for Social Solutions (SSS)』を運営しています。本チャンネルでは、スポーツの可能性を探求し、スポーツが社会の様々な問題にどのように取り組むことができるのかを探ることを目的としています。専門家や行政関係者、アスリートなどの幅広いゲストとともに、社会課題解決のプラットフォームとしてのスポーツに光を当て、情報提供や意見交換を行います。

成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター YouTubeチャンネル:

 今回のテーマは「運動部活動の地域移行」。
 SGEポスドク研究員の二人が各分野の専門家にインタビューを行い、視聴者と共に学びを深める「ポスドクインタビュー回」。今回は、筑波大学助教の下竹亮志先生をゲストに迎え、運動部活動の地域移行について、その背景、課題、そして今後の方向性を多角的に掘り下げていきます。これまでスポーツとジェンダーに関する問題を中心に扱ってきた本チャンネルですが、スポーツとジェンダーの問題は様々な社会課題と複雑に絡み合っていることから、今回はより広い視野でスポーツと社会課題について考察します。

下竹亮志氏(筑波大学 助教)
 専門分野はスポーツ社会学。著書に『運動部活動の社会学:「規律」と「自主性」をめぐる言説と実践』『日本代表論』などがあり、運動部活動に関する研究が中心。

運動部活動の地域移行とは

 下竹助教はまず、運動部活動の地域移行の現状について説明しました。近年、「運動部活動の地域移行に関する検討会議」が継続的に議論を重ね、2023年度から2025年度にかけて、まず休日の部活動を地域移行していく方針が打ち出されました。しかし、長年学校で行われてきた部活動をいきなり地域に移すことへの現場からの反発もあり、当初の「改革集中期間」という名称は「改革推進期間」へと変更され、部活動と並存しながら地域の事情に応じて取り組みを進めていくという、よりトーンダウンした方針となりました。
 さらに、2024年12月には「地域スポーツ文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」が設置され、中間取りまとめが発表されました。そこでは「地域移行」という呼び方から「地域展開」という呼び方へと変更されています。下竹助教は「地域移行という呼び方だと、学校が関わらないというニュアンスが出てきて、学校と地域が対立的に捉えられてしまうという懸念から、こうした呼び名に変更された」と説明。政策の文言が頻繁に変わることからもわかるように、この改革案は現場も政策立案側も混乱している状況にあると指摘しました。

地域移行の背景──教員の多忙化問題


 この地域移行の主な背景として、下竹助教は教員の負担問題を挙げました。2013年にOECDが行った「TALIS調査」において、日本の中学校教員の部活指導時間が世界中で突出していることが明らかになりました。特に休日の部活動指導時間が長いというデータから、教員の多忙化問題を解決するために、まず休日の部活動を地域移行しようという方針が生まれたのです。
 しかし、下竹助教は「実は地域移行という政策構想自体は、これまで繰り返し出されてきた歴史がある」と指摘します。1970年代には、部活動中の事故で教員の責任が問われる裁判が起こり、教育課程外の活動である部活動での事故責任を問われることへの疑問から、地域移行の議論が生まれました。また、1990年代には新自由主義教育改革の流れの中で、学校教育を民間に開いていこうという政策展開があり、総合型地域スポーツクラブの設立推進とともに、部活動の地域移行が議論されました。
 「これらの過去の議論に比べると、近年の地域移行政策の背景にある教師の多忙化という話は、非常に消極的というか、袋小路に陥ったから、とにかくもう学校では無理だというところから議論が始まっている」と下竹助教は分析しました。

日本の運動部活動の特殊性──曖昧な制度的位置づけ

 次に、日本の運動部活動の特殊性について解説がなされました。世界的に見て、日本のように学校教育の中でスポーツ活動がこれほど力を入れて行われている国は非常に珍しいと下竹助教は説明します。しかし、制度的に見れば、部活動は極めて曖昧なものであるといいます。
 「部活動は学習指導要領で定められる教育課程内の活動とは異なり、教育課程外の活動です。体育の授業では、カリキュラムとして種目や時間が細かく決められていますが、部活動についてはそういったことが一切ない。そのため、それほど綿密に政策的にこれをしなさい、あれをしなさいというのが決められないまま、大規模にやられてきた」という事情があったといいます。

部活動の多面的役割


 下竹助教は、部活動が単なるスポーツ活動以上の役割を学校の中で果たしてきたことを指摘しました。「部活動がなかったら学校が成り立たない」という現場の声があるように、部活動は学校秩序を統制する機能を持ってきました。授業には出られなくても、放課後の部活動だけは一生懸命やるという生徒もいて、部活動が居場所となることで、学校とのつながりを保つことができるのです。
 さらに、部活動には福祉的な側面もあります。保護者からすれば、放課後に先生がボランティアで、それほどお金を払わなくてもスポーツ活動を実施してくれて、土日まで面倒を見てくれるという、ある種の学童保育的な機能も果たしてきました。
 下竹助教は、2000年代初頭の完全週5日制導入後、部活動参加時間が増加したというデータを紹介しました。「土日は学校から生徒を解放しようという政策だったにもかかわらず、実際には2001年から2006年の間に、特に土日の部活動参加時間が増えたというデータが出ています。これは、本来は土日に学校から生徒を解放する政策が、反対に部活動を通じて、むしろ学校に留め置くことになったということです」

部活動に期待される教育的価値

 部活動に期待されてきた教育的価値について、下竹助教は大きく2つの軸があると説明しました。1つは「規律」で、礼儀正しい振る舞いができるようになる、先輩後輩の上下関係の中で厳しい練習を乗り越えながら礼儀が身につく、挨拶ができるようになるといった教育的効果です。もう1つは「自主性」で、放課後の部活動において自主的に好きなことに取り組み、一生懸命それに取り組んで色々考えながらやることで、様々な能力を身につけていくという理念です。
 下竹助教が長年フィールドワークしてきた高校では、伝統的な厳しい上下関係のあるチームに、生徒の自主性を重視する新しい顧問が着任しました。「生徒たちは新しい自主性という価値と、元々チームが持っていた規律的な部の伝統をうまく結びつけながら活動していました。チームの特徴を聞くと『自主性を尊重する』と答えるのですが、部活動で何を得たかと聞くと『礼儀を守れるようになりました』『挨拶できるようになりました』と答えるのです」
 この事例から下竹助教は、「現状の日本の部活動は、自主的に活動していたとしても、結局は社会性が身についたという認識を生徒に効果として認識させていくような状態にある」と分析しました。

これからの部活動を考える

 最後に、今後の部活動のあり方について、下竹助教は重要な提言をしました。「これまで部活動が社会性を身につける場を担ってきたから、地域に移した時もそういうことをするべきだという議論もあると思います。しかし、よく考えてみると、礼儀が身につく、挨拶ができるようになるということは、スポーツを通してそれを身につけないといけないのでしょうか」
 下竹助教は、そうした社会性の涵養は家庭の躾や部活動以外の学校教育でもできることだと指摘しました。部活動が学校秩序を統制してきた側面はあるにせよ、それを地域に出した時にそのまま同じ機能を担わなければならない必然性はないというのです。
 「これから地域で、今部活動と呼ばれているようなスポーツ活動が行われるようになるのか、それとも学校が何らかの形で関わりながら行われるようになるのかは分かりません。しかし、その時にやはり重要なのは、特に運動部活動というものは運動、スポーツをやっているわけですから、スポーツには一体何ができるのかを改めてしっかり考えていく必要があると思います」
 これまでの運動部活動は、スポーツをやってきたにもかかわらず、なぜかその教育的効果に対する認識がスポーツを通さなくても可能な社会性の涵養に強く結びついてきました。「そういった認識を少し別の方向に開くために、やはりスポーツというものを実践する中で、どういう経験を得ることができるのか、スポーツ経験の固有性というのをしっかり見極めていかなければいけない」と下竹助教は強調しました。

まとめ

 運動部活動の地域移行をめぐる議論は、単なる教員の負担軽減という枠を超えて、日本の学校教育におけるスポーツの位置づけ、そしてスポーツそのものが持つ可能性を問い直す契機となっています。スポーツを「社会性を身につける手段」として捉えるのではなく、スポーツ経験そのものの固有の価値を見つめ直すこと。それが、これからの運動部活動、そして地域スポーツを考える上で重要な視点となるでしょう。
今回の記事のフル動画はこちらよりご覧いただけます。
https://youtu.be/XhVuvelnKig?si=divz1wc0cHCVyTR6